ヴィンテージロレックスの魅力の一つが、プラスチック風防(アクリル風防)です。
プラスチック風防は透明感の中にも柔らかな質感があり、光の反射も優しいため、ヴィンテージロレックスならではの温かみのある雰囲気を楽しめます。
一方で、サファイアクリスタルに比べると傷が付きやすいという欠点もあります。しかし、細かな擦り傷も長年大切に使われてきた証であり、ヴィンテージロレックスならではの味わいの一つと考える愛好家も少なくありません。
また、プラスチック風防は研磨が可能な素材のため、浅い擦り傷であれば、アモールやキクモールなどの研磨剤で磨くことで、傷を目立たなくし、透明感を取り戻せる場合があります。傷を味わいとして楽しむことも、美しく磨き上げて楽しむこともできるのが、プラスチック風防ならではの魅力です。
今回の作業時計は、ヴィンテージロレックスの人気モデル「ロレックス デイトナ 6263」です。
まずは、研磨前のプラスチック風防の状態をご覧ください。

傷をアップで確認してみると、爪が引っかかるほど深い傷が確認できます。
幸い、クラック(ひび割れ)は見られなかったため、今回は研磨による修復を行います。

プラスチック風防を磨く前の注意点
プラスチック風防の研磨は、正しい方法で行えば透明感を取り戻せますが、誤った方法では風防を傷めてしまう恐れがあります。作業前に、次の点を確認しましょう。
● クラック(ひび割れ)がある風防は研磨せず、交換を検討してください。
● ベゼルやケースは、マスキングテープで保護してから作業を行いましょう。
● 傷の深さに応じて適切な番手の耐水ペーパーを選びましょう。
● 力を入れて削る必要はありません。軽い力で十分です。
● 紙ヤスリは折り曲げず、平らな状態で使用してください。
● 円を描くように磨くと研磨跡が目立ちやすいため、上下方向のストロークで研磨しましょう。
● 傷のある部分だけではなく、風防全体を均一に研磨しましょう。
● 一度に削り過ぎず、傷の状態を確認しながら少しずつ研磨することが大切です。
※本記事でご紹介する方法は、実際に行っている研磨方法の一例です。研磨は風防を削る作業となるため、作業を行う際は十分ご注意いただき、自己責任でお願いいたします。

プラスチック風防を磨く前の下準備
プラスチック風防を磨く前には、しっかりと下準備を行うことが大切です。
研磨作業中は時計を何度も回転させながら作業を行うため、作業台やクロスに付着したプラスチックの削りカスや研磨剤に気付かず、バックケースを擦って細かな傷を付けてしまうことがあります。
そのため、ベゼルやケースだけでなく、バックケースまでマスキングテープで養生してから作業を始めましょう。
また、作業台には柔らかい布を敷き、その上に紙を敷いておくと、プラスチックの削りカスや研磨剤で汚れても紙を交換するだけで済み、作業後の片付けも簡単です。
このような下準備をしておくことで、プラスチック風防以外に傷を付けるリスクを減らし、安心して研磨作業を行うことができます。

今回の傷は非常に深いため、まずは320番の耐水ペーパー(紙ヤスリ)で試し削りを行います。
耐水ペーパーは、数字が小さいほど粗く、数字が大きいほど細かくなります。
(粗い)320番 → 600番 → 1200番 → 2000番(細かい)
このように番手を徐々に細かくしながら研磨することで、前の番手で付いた研磨跡を消し、美しい仕上がりになります。
注意点は、力を入れて削る必要はありません。紙ヤスリ自体がしっかりと研磨してくれるため、軽い力で十分です。
紙ヤスリを折り曲げず、平らな状態で使用することです。折り曲げたまま研磨すると、力が一点に集中し、風防を均一に磨けず、余計な傷や研磨跡が残る原因になります。


数回上下に動かしただけで、これだけ多くの削り粉が出ます。それだけ320番の耐水ペーパーは研磨力が高いことが分かります。
そのため、最初から粗すぎる番手で一気に削ると、必要以上に風防を削ってしまい、仕上げの研磨に時間がかかるだけでなく、風防の形状を崩してしまう恐れがあります。
一方で、細かすぎる番手から始めると傷がなかなか消えず、仕上げまでに多くの時間を要します。
傷の深さに合わせて適切な番手を選ぶことが、美しく仕上げるための重要なポイントです。
傷の深さに合った番手が決まったら、風防全体を均一に研磨していきます。
まずは上下方向に一定のストロークで風防全体を研磨します。
次に、時計を90度回転させ、再び上下方向に研磨します。
さらに、時計を45度回転させ、同じように上下方向へストロークしながら研磨を行います。
このように研磨方向を変えながら風防全体を均一に磨くことで、研磨ムラを抑え、自然な仕上がりになります。
※プラスチック風防は研磨しやすい素材ですが、研磨方法を誤ると光の当たり方によって磨き跡が見えてしまうことがあります。そのため、円を描くように磨くのではなく、上下方向に一定の方向で研磨することをおすすめします。
傷だけを追いかけて一部分を削るのではなく、風防本来の形状を維持するためにも、一部分ではなく全体を均一に研磨しましょう。


大きな傷が消えたことを確認しながら、慎重に作業を進めます。
傷が消えたら、次に細かい番手の耐水ペーパーへ移ります。
ただし、一気に細かすぎる番手へ変更すると、前の番手で付いた研磨跡(ペーパー目)がなかなか消えず、かえって仕上げに時間がかかってしまいます。
そのため、番手は段階的に上げながら研磨を進めることが、美しく効率よく仕上げるポイントです。
耐水ペーパーの番手による仕上がりの比較


1200番の耐水ペーパーに変更し、同じ手順で風防全体を均一に研磨していきます。
下の写真は、耐水ペーパーの番手ごとの研磨跡を比較したものです。番手が細かくなるにつれて、ペーパー目が細かくなり、表面が滑らかになっていく様子が確認できます。
前の番手で付いた研磨跡を一つずつ消していくイメージで、順番に番手を上げながら研磨を進めましょう。


2000番では耐水ペーパーを水で湿らせながら同じ手順で研磨します。これにより、削りカスによる目詰まりを抑え、よりきめ細かく仕上げることができます。


画像からも、番手が細かくなるにつれてペーパー目が細かくなっていることが分かります。
ここまで研磨できれば、あとは最終仕上げです。
最後は、研磨剤のアモール(キクモール)をセーム革や柔らかくきれいな布に少量付け、上下方向へ一定のストロークで風防全体を磨いて仕上げます。


円を描くように磨くと磨きムラや磨き目が目立ちやすくなるため、上下方向のストロークを意識して仕上げることが大切です。
この作業を繰り返すことで、耐水ペーパーで残った細かな研磨跡が消え、プラスチック風防本来の透明感と艶がよみがえります。
キレイな布で研磨剤を拭き取って仕上がりを確認し、傷や研磨跡が残っている場合は、必要に応じて同じ工程を繰り返します。


左:研磨前
爪が引っかかるほどの深い傷が確認できます。
右:研磨後
深い傷が目立たなくなり、プラスチック風防本来の透明感と艶がよみがえりました。


プラスチック風防は、ヴィンテージロレックスならではの魅力のひとつです。浅い傷から今回のような爪が引っかかるほどの深い傷まで、クラック(ひび割れ)がなければ研磨によって改善できる場合があります。ただし、磨き過ぎは風防の形状や厚みに影響する可能性があるため、状態を確認しながら慎重に作業を行いましょう。
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